モスクワで村上隆氏の展覧会、「カワイイ」の裏に隠された独自の世界観
9月29日、モスクワの現代美術館「ガレージ」で、現代美術家・村上隆氏の大規模な展覧会が始まった。村上氏は言わずと知れた、日本だけでなく世界のアートシーンにおけるスーパースターだ。展覧会には、「やさしい雨が降る」という詩的なタイトルがつけられている。このフレーズ (There Will Come Soft Rain) は、20世紀初頭の米国の女流詩人、サラ・ティーズデールの詩からの引用だ。この詩は雨についてのもので、雨上がりには人ではなくて、自然が残ると謡っている。SF小説家レイ・ブラッドベリの短編小説にも、同じタイトルのものがある。詩も短編小説も、「終末の後」を象徴するものだと考えられている。スプートニク特派員は展覧会を訪れ、村上氏と、展覧会を企画したキュレーターにインタビューを行なった。
展覧会の準備には2年以上を費やした。展覧会は、展示室だけではなく、美術館「ガレージ」の空間のほぼ全てで行なわれていると言ってもいい。美術館の正面やカフェ、ブックストアなど、あらゆる場所が村上氏の絵や彫刻、版画、コミック、本、Tシャツ、バッジでいっぱいになっている。
展覧会のサイト
作品は全部で80点以上。展覧会は『芸術』『リトル・ボーイとファットマン』『カワイイ』『スタジオ』『遊びと飾り』の5部制だ。それぞれの部は、1990年代初頭から今日に至るまでの村上氏の作品の特定のジャンルや時期をテーマにしている。
村上隆のTwitter
村上氏の作品はサイケデリック・ポップアートに分類されている。笑う花と、大量の目をもつキノコの背景には、村上氏の深遠な内面世界が隠れている。広島や長崎に落とされた原爆、津波、福島第一原発の事故といった、日本をおそった数々の困難な試練が、村上氏の内面世界に大きく影響しているのだ。
2013年、村上氏が初めて監督を務めたアニメ映画「めめめのくらげ」が公開された。この映画は、子供だけが見ることのできる「奇妙な存在」と、子どもとのふれあいを描いている。同作品は東日本大震災の影響を受けて撮影された。村上氏は現在、「カイカイキキ」の代表として、アニメ映画の撮影を続けている。

展覧会「やさしい雨が降る」の記者会見に、村上氏は赤い上着を着て登場した。「今日の装いのイメージはどこから?」とのスプートニク記者の質問に、村上氏は「今日、パーティーのドレスコードが赤だと聞いたので赤にしたら、そんなドレスコードはない、と言われてびっくりしています」と答えた。

村上氏は、「境界線」を取り払う巨匠だ。彼は大胆にも高尚な芸術と低俗なアートをミックスしている。ルイ・ヴィトンのような有名な高級ブランドの鞄を作る一方で、同時期に安価なキーホルダーを作る。高値で自らの作品をオークションで売りに出すと思えば、子供たちへのプレゼント用にカブトムシやクワガタを繁殖させている。55歳の村上氏はとどまることを知らず、新しい芸術の道と表現形式を探し続けている。
村上氏は、日本芸術に特有の緻密な絵画技術を用いて、日本の古い文化と現代文化を融合させ、ハイブリッドで多様性に富んだ芸術作品を創り出している。村上氏の作品のファンは日本国内にとどまらない。これは、日本文化の繊細な心を、海外の観客に伝えることができる特別な「輸出形式」だと呼ぶことができるだろう。 村上氏はスプートニクのインタビューに対して、次のように話している。
スプートニク:
村上さんにとって、芸術家としての主要な原理・原則は何ですか?
村上氏:
そうですね、ずっと仕事しつづけられるかどうか、ですかね。あとは頭をエンプティネスに、からっぽにすることでしょうか。それができる人がアーティストになると思いますから。
スプートニク:
村上さんは今回の展覧会に、日本の芸術の代表者という位置づけで臨まれていますか? それとも、あくまでこの展覧会は、ご自身の芸術を発表する場としてとらえていますか?
村上氏:
僕は日本を代表する気持ちはありませんが、今回の展覧会のキュレーターのエカテリーナさんに「日本のカルチャーも一緒にもってきたい」という意向があったので、展覧会そのものは日本のカルチャーがミックスしているようなムードになっていると思います。
スプートニク:
モスクワはいかがですか?
村上氏
いいですね。みんな、人々が温かいです。
展覧会のキュレーター、エカテリーナ・イノゼムツェワ氏はスプートニクのインタビューに対し、「村上さんの展覧会を『ロシアにおける日本年』とリンクさせる方が多いのですが、これは偶然です。とはいえ、この偶然に喜んでいます」と話し、次のように続けた。
日本の現代芸術家の巨匠である村上さんの展覧会についてのアイデアは、来年が「ロシアにおける日本年」だと決まる以前に、すでに出されていました。今回の展覧会は、物理的にも、人的なリソースという点でも、皆さんにどう受け入れられるかという点でも、とても珍しい展覧会だと思っています。私たちはこの展覧会のために、20か所以上から村上さんの作品をお借りしました。村上さんの作品は、子どもにも大人にも、お堅い学者にも、そしてもちろん奔放な若者の心にも、ダイレクトにハートに伝わるような力があります。村上さんは文字通り、クリエイティブなエネルギーで光り輝いていて、作品を見る人々にそのエネルギーを伝えてくれるのです。
エカテリーナ・イノゼムツェワ
ロシアにおける「村上ブーム」という現象は、実は以前にもあった。日本を代表する小説家、村上春樹氏の小説『羊をめぐる冒険』が1988年にロシア語で出版されたとき、ロシアでは第一次「村上ブーム」が起こったのだ。

おそらく、今回の展覧会をきっかけに、ロシアにおける第二次「村上ブーム」の爆発が起きるだろう。なお村上隆氏は、自身がデザインしたキャラクター「Mr. DOB」のプロトタイプは、ロシアの国民的キャラクター、「チェブラーシカ」であると明かしてくれた。
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