旅行を通じて「交差」する日本とロシア
新トレンドは食とお酒を楽しむ旅
写真: C.K. Tse / japanese tourist



来年2018年は日本におけるロシア年、ロシアにおける日本年であるとともに、ロシアで初めてサッカーW杯が開かれる記念すべき年だ。これにあやかりロスツーリズム(ロシア連邦観光局)は、2018年から2019年にかけて露日観光交流年の実施を計画していると発表した。スプートニクは日本旅行&ロシア旅行の最新トレンドについて、旅行業に携わるスペシャリスト達に話を聞いた。
今年9月、東京で「ツーリズムEXPOジャパン」が開催され、それにあわせて「日露観光当局間による2019年までの共同活動プログラム」の改正覚書と、「食と観光週間イベント開催協力」の覚書が交わされた。その中には、2018年の年間交流人口を日露合算で22万人、2019年に25万人とする目標が盛り込まれた。
日本政府観光局(JNTO)は今年1月にモスクワ事務所を開設し、日本への観光客を増やすべく様々な取り組みを行なってきた。JNTOモスクワ事務所・本蔵愛里所長は、ロシアの地方都市で、旅行会社を対象に日本観光についての情報を広めて回っている。地方都市のセミナーでは、旅行会社の社員であっても日本旅行に関しては初心者ばかりで、出席者の中に日本渡航経験のある人が一人もいない、ということもよくある。一方、ロシア人にとってメジャーな観光先であるタイやベトナム、中国といった国には、行ったことがある人ばかりだという。
ロシア人の日本旅行、ビザ緩和した途端に急増
16日、日本政府観光局(JNTO)モスクワ事務所のオープニングセレモニーが行われ、日系およびロシアの旅行会社の代表者ら、マスコミ関係者が多数集まった。
ロシア人にとって日本といえば「高品質だが高い」というイメージがあり、一般市民も旅行会社も、「手が出ないもの」だと勝手に思い込んでしまっている。本蔵さんは「直行便も往復で550ユーロくらいから買えるし、大手チェーンの定食屋やランチ寿司セット、エコノミークラスのビジネスホテルなどをご紹介すると、『こんな価格でいいの?』と驚かれます。お手ごろ価格で食べたり泊まったりできるということをもっと伝えていきたい」と話す。また、ロシア人は休暇直前に旅行先を決める「かけこみ旅行」をすることが多く、そのせいで費用が余計に高くなりがちだ。が、最近は少し改善が見られ、今年の夏の段階で来春のさくらシーズンの予約がどんどん入るなど、前倒しで予約する重要性が認知されてきた。
来年、食をキーワードに、観光交流の活発化を図る観光週間イベントを日露相互で開催します。時期や内容など詳細は未定ですが、寿司や天ぷらだけではなく、日本の地方へ行くと色々な名物、地酒などがあるということを知ってもらい、日本食を目当てに旅に出てほしいです。
JNTOモスクワ事務所・本蔵愛里所長
ロシア旅行業協会の広報担当、イリーナ・チュリナさんは言う。
昨年のデータではロシアを観光した日本人は約8万人、日本に旅行に行ったロシア人は約5万4千人でした。ですから来年の交流人口を合計22万人にまで増やすというのは非常に挑戦的な数字です。しかし旅行者は増加していますし、特に極東ロシアからの観光客はとても積極的で、このダイナミズムは、日露双方の観光の流れの加速を約束するものです。日本は高額な旅行先ですがお手ごろ価格のツアーもあり、たくさんのヴァリエーションを作ることで多くの旅行会社が成功をおさめています。そういう会社には日本ファンがいて、非常に適切なツアーを作っています。ロシアへの観光で言えば、極東ロシアに自力で行く日本人はだいぶ前からいますし、モスクワやサンクトペテルブルク以外の行き先もゆっくり定着してきています。
日本の観光庁は、ロシアへより多くの旅行者を送り出すため、日本旅行業協会(JATA)に委託しウラジオストク視察団を派遣したり、旅行社や航空会社で作るワーキンググループを設けて活動するなど、インバウンドだけでなくロシアへのアウトバウンドにも力を入れている。大手旅行社のモスクワやペテルブルクといったロシア観光の定番ツアーは年々人気を集め、特に夏のシーズンは人気を博している。
ロシアや旧ソ連圏の旅行をメインに手がけるジェーアイシー旅行センターの杉浦信也営業部長は、「MAKS 国際航空ショー観覧や戦車バイアスロンは、戦車や軍用機を間近に見られるとあって大好評でした。マトリョーシカの工房を見学するツアーも人気があります」と話す。テーマのある旅、好奇心を満たす旅が、これからのキーワードだ。自分で日程を組み、こだわりの旅を作りたいという人が増えている。
ウラジオストク
Fotolia / Irinabal18
杉浦氏が「これから積極的に使っていきたい」と話すのは、今年8月から導入されたウラジオストク「自由港」経由でロシアを訪れる外国人のための、電子ビザ発行制度だ。事前にウェブサイト(日本語対応)で手続きしておけば、従来のように大使館に行ってビザを申請する必要はなくなる。
杉浦氏「現地の流れを確認し、一般のお客様にこの制度を紹介してよいのか見極めるため、弊社からスタッフを派遣しました。結果、申請から入国までスムーズにできましたので、これは『使える』制度だと思います。例えば『ウラジオストク4日間』というようなツアー商品を作るときに電子ビザを積極的に使っていただければ、少なくともお客様のパスポートを預からなくてすみます。日本人にとってビザの必要な国は滅多にないので、お客様にとってはそれだけでもロシア行きの敷居が低くなります。旅行会社でこれを推進しているところはまだないようですが、私たちとしては取り入れていきたいと思います。難点は入国ポイントと出国ポイントが同じでなければいけない、ということです。極東を旅行する場合はウラジオストクに入り、そこからハバロフスクまでシベリア鉄道で移動して、ハバロフスクから帰国するという方がとても多いので、そういう方々には応用できないのが残念です」
日本へのツアー旅行を手がける「ジャパンツアー・コンシェルジュ・モスクワ」のマネージャー、クリスティーナ・モロゾワさんは言う。
もともと日本への旅行は少しずつ伸びてはいたのですが、ビザ要件緩和後は、書類手続きを間に合わせるのが大変なくらい、それはもう急増しています。日本にオフィスをかまえていましたが、日本への関心が急激に高まって旅行者数も増えたので、モスクワにオフィスをオープンさせました。露日観光交流年といっても、その枠内で行われるイベントが旅行会社間にとどまるならあまり意味がなく、一般市民のレベルまでいけば効果があると思います。なにしろ、ロシアで日本への旅行の広告を見ることは本当に少ないですから。どんなツアーがあるのか?いくら位で行けるのか?という情報については、マスコミや旅行会社を通してではなく、ロシアでは「口コミ」で伝わるんですよ。多くのロシア人は日本が初めてで言葉もわからないので、ガイドつきで東京と京都をまわるような、定番コースを選びます。しかしながら、リピーターの中にはスキーや温泉など、目的をもった旅をするお客さんも現れ始めています。そういう方々には広告の類は必要ありません。
ロシア人は、日本について話すとき「ドゥルガヤ・プラネータ(ほかの惑星)」という表現をよく使う。何もかも違う想像もつかない世界、というニュアンスで使われるが、その惑星は、期待を裏切らない、発見に満ちた新世界である。そして日本人にとってロシアは、良い意味でイメージを覆す国だ。その理由は、自分の目で確かめてほしい。
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